第一章 ツキはどっちに出ているか?
                            

氷高颯矢


 ルナルシード王国――"月に愛されし蒼の都"吟遊詩人にもそう詠われた麗しい国。その国の姿は今はない。存在しないのではなく、変わり果ててしまったのだ。
「どうしよう…このままだと王宮の人達に今月も給料が払えなくなる…」
 慢性的な不況と多額の国債を抱えて、ルナルシードの国庫はすでに空っぽだった。王女は今月の出費を考えて頭が痛くなった。
「姫、私どもの事ならお気になさらずに…」
「ダメよ、ティナ!貴方達はとても良くしてくれてるのに、これ以上お給金を減らす訳にはいかないわ!父上も私も今月は1日2食にする。それから、衣装の中から質素なものだけを除いて他は処分するわ。そうね、宝石も処分しちゃおうかしら?綺麗だけど、生活する上で絶対必要って訳じゃないもの」
「いけません、姫!衣装や宝石は王家の威信を表わすものです。必要なものなのです」
「威信なんて要らないわ。いっそこの国を捨ててしまうって言うのも良い考えかもね?私も父上も平民になって慎ましく暮らすの。どう?」
 そう言って微笑む。
「この国には月の加護があります。今は苦しくても、きっと何とかなります!」
「何とか…ね。月の加護なんて単なる迷信よ。そんなものがあるならこんなに困ってるはずないじゃない?もし、神様だかなんだかしらないけど、加護があるって言うならちょっとは応えてくれても良いんじゃない?

ねぇ――この国を、助けてよ!


 そう叫んだ瞬間、風の向きが変わった。
「僕を呼び起してくれたのは…キミ?」
 気が付くと、目の前に小さな人間が浮かんでいた。
「な・な・な・何?何なの?」
 小さな人間――見た目に性別は男と判る。少し長めの耳は先が尖っている。浅黒い肌に蒼い髪、金色の瞳。
「僕はセレナート、月の精です。貴方のおかげで長い眠りから覚めました」
「月の精…?」
「はい、この国を見守って行くのが僕の使命です」
 柔和な笑み。それは穏やかな月の表情に似ていた。
「じゃあ、この国を助けてくれるの?」
 返答はない。
「…僕の力は失われつつあります。こうやって身体を維持するのもやっとなくらい…。国全体を救うなんて大それた事はできません」
「じゃあ、どういう事なら出来るの?」
「僕の力は運命に働きかける事――"流れを変える力"です。だから、この国の運命の一端を握っている――王女、貴方の運命を変えてこの国の未来に繋げてみましょう」
 心なしかセレナートの身体が少し大きくなったような気がした。
「王女よ、貴方は自分の運命に全てを賭けると約束してください。信じる事こそ力なのです。貴方が願う未来を呼び込むのです!」

「私は…私は、自分の運命を信じる!」

 宣言した瞬間、セレナートの身体が黄金色に光った。
「王女よ、貴方の未来に祝福を!」
 セレナートの言葉は見えない風となって運命を引き寄せる。

 この時、隣国であり"沈まぬ太陽"と呼ばれる大国・サンドリオン皇国で同じく大きく運命を変える事になる者が居た。その手の中に転がり落ちたものは玉座と王冠――決して許されない罪を背負って…

「ダブル・ムーン」の改訂版小説です。
元は漫画で描いてたのですが、話が大きくなって書ききれなくて、
更にキャラが当初の予定通りにいかなかったので、小説でリベンジなのです。
気長に更新を待ってください。
アミはちょっと女らしくしました。
セレナートが前に比べると格が下がってます。
真のヒーローが存在するから脇にせざるをえないのです。

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